曲木家具の製造販売
秋田県湯沢市関口字川前117
曲木家具の製造販売
秋田県湯沢市関口字川前117
まっすぐな木材を数分でしなやかに曲げる「曲木(まげき)」の高い技術で名だたるデザイナーに愛され、椅子の名作を数々世に送り出してきた秋田木工。110年以上にわたって職人たちが技を受け継ぐ曲木を専門とする国内唯一の家具メーカーの魅力を、”技術”と”職人”の2部構成でお届けします。
天然乾燥させた木材を高温で蒸し、鉄型に添わせて加工する「曲木」の技術は、1840年頃(日本では江戸時代後期)にドイツ人の家具デザイナー、ミヒャエル・トーネットによって考案されました。
秋田木工で長年、曲木の主な材料としているブナ。幹に水分を多く蓄える木であるため、ブナ材は腐りやすく、かつては加工に不向きとされていました。ブナ(橅)を漢字で木へんに「無」と書くのは「役に立たない木」に由来するとも言われています。
木を蒸して加工し硬化させる、トーネットが生み出した曲木の技術はブナの存在価値を変えました。
1910(明治43)年に秋田木工が設立された背景には、東北の森に豊富にある良質なブナを活用した産業振興、海外輸出による外貨獲得への期待がありました。
現在は、東北産のブナのほか、ナラ、北米産ホワイトオーク、北欧産ビーチ(ブナ)も使用しています。
まずは製材後に約1年かけて天然乾燥してゆっくり水分を抜いていきます。雄物川沿いにある敷地の一角には、高く積み重ねられて天然乾燥されるブナ材が並んでいました。
木材の乾燥だけで1年。その後も時間と手間をかけ、「治具」「曲木」「切削」「研磨」「塗装」など各工程を担当する職人の手仕事を経て秋田木工の製品は完成します。
曲木に欠かせない鉄型「治具」作りは、鉄の板を機械で少しずつ叩いては、実寸大の図面から制作した木製の箱に当てて曲り具合や角度を確かめ、また叩いて…の繰り返しです。絶妙な手の動きや力加減で機械に当てて鉄の板を打ち、曲げやひねりを加えた3次元に加工します。
曲木は、木材を100度近い蒸気で20分〜1時間蒸す作業から始まります。釜から立ち上る高温の蒸気に夏は汗だくになるそうです。
蒸した木材を釜から出し、手早く鉄型に合わせながら5分ほどで曲げて金具で固定していきます。短時間で曲げるのは、乾燥すると木材が硬くなってしまうから。製品によっては2人がかりのものもあり、職人たちはあうんの呼吸で木を曲げます。
木材は、たとえ同じ木だとしても1本1本木目や硬さが違い、節があったり、曲がって育っていたりと個性があります。曲木の職人は、木材と対話をするかのように、曲がりやすい木、曲がりにくい木、クセに合わせて工夫が必要な木など個性を見極め、蒸し時間や曲げのタイミング、力加減、金具を固定する位置など考えながら作業を進めます。
曲木の後は、約70度に保った空間で約14時間乾燥させます。木材は硬化して曲木前より軽くて丈夫になります。その後、製品の大まかなラインを削り出したり、組み立てに必要な穴あけやホゾを作る「切削」を経て「研磨」へ。
木材の角を丸く整え、デザインに合わせて曲線部を削り、太さや角度を調整します。その際に使用する道具が「南京カンナ」です。職人たちは異なる15本ほどの南京カンナを持っており、製品に合わせて種類を使い分けています。
続いて表面を滑らかに磨く作業へ。曲線部を紙やすりに当てながら全身を使って滑らせるように曲木を絶えず動かして磨いていきます。機敏な動きと絶妙な力加減が問われる作業。研磨の繊細な仕事によって秋田木工製品のなめらかな手ざわりやフィット感が生まれます。
機械を使った大量生産が可能な今、あえて職人の技と手作業にこだわり続けている秋田木工。職人たちは作業について次のように話します。
「経験によって技術は体で覚えている」
「企業秘密や特別なことは何もない。経験と勘が全て」
「力加減は感覚」
110年以上受け継ぐ技術を職人たちは手で覚え、体に染み込ませて、人の手でなければ生み出せない温かみを製品に宿しています。
木の特性を熟知した職人たちのリレーによる細やかな仕上がりと美しさは、他ではまねのできない匠の技。秋田木工の製品は、柳宗理や剣持勇といった巨匠をはじめ、現代のデザイナーにも愛されてさまざまなコラボ製品が誕生しています。
職人の年齢は25歳から75歳までと幅広く、熟練工から入社1年未満の若手まで老若男女問わず家具作りに励んでいます。各工程の重要な仕事を若手にも積極的に担当させるのは「技術継承のため。若手に技術を教えつつ、失敗のカバーやフォローをするのがベテランの役割。いくら技術があっても年齢を重ねるとバイタリティーが落ちてしまうのでベテランのバイタリティーを補うのが若手の役割。いい相乗効果が生まれています」と代表取締役の風巻穣さんは話します。
目指すは、使い捨てではなく、親から子へ、子から孫へと受け継がれる「長年愛用していだだける家具」。
自社製品の修理やメンテナンスも引き受けており、中には100年以上前に製造された椅子が運び込まれることもあります。「この先、何十年、何百年と製品を愛用していただくためにも技術の継承、職人の育成に力を入れています」
近年は、JR東日本の豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」のテーブル・ソファを手がけたり、デザイナーやブランドとのコラボ製品を発表したり、新たな挑戦も注目を集めています。風巻さんは話します。「長年の歴史、職人の技があるから臆することなく新しいことに挑戦できる。時代に合わせて新しいことにどんどん挑戦し、変える部分は変えていかなければ歴史や技術を守っていくことはできないですから。曲木の技術を活かして挑戦を続け、もっと高みを目指していきたい」
職人技の誇り、手仕事の温かさ、ものを大切にする精神。日本が世界に誇るMADE IN JAPANの真髄が秋田にありました。
日本デザイン界のパイオニアの1人、剣持勇氏がデザインした秋田木工のロングセラー商品。2013年には「グッドデザイン ロングライフデザイン賞」を受賞し、これまで100万脚以上を生産しています。
明治43年創業の曲木家具の製造業者。全ての部品を曲木で製作した椅子を作れるのは日本唯一といわれ、高い技術力を背景にグッドデザイン賞を多数受賞。有名デザイナーとのコラボ製品も多数生み出している。「木が木で立っていた時よりも美しく」を信念に、伝統を受け継ぎ、新たな時代に合った曲木家具を作り続ける。