曲木家具の製造販売
秋田県湯沢市関口字川前117
曲木家具の製造販売
秋田県湯沢市関口字川前117
手作業にこだわり、木の特性を熟知した職人によって作られる秋田木工の家具。
どんな人がどんな思いで作っているのか、作り手の歩みや心に触れたとき、曲木家具のさらなる魅力が見えてきました。
曲木家具づくりに欠かせない金型「治具」づくりを担当するのはこの道ひと筋約60年のベテラン天童さんです。
治具づくりは「曲げ」だけでなく「ひねり」が加わるとさらに作業が複雑になり、高い技術が求められます。どんな金型も寸分の狂いもなく作る天童さんに秘けつを聞くと「企業秘密はないよ。経験と勘だけ」と穏やかな笑顔で話しました。
そして新人時代を振り返り、「昔の職人は何も教えてくれなくて先輩の仕事を見て覚えるしかなかった。休み時間に誰も見ていないところでこっそり練習したりして。入社2年で先輩から『やってみろ』と言われて鉄を打って。そこから一人前になるまで10年はかかったよ」と話します。天童さんの卓越した技術は、経験を体に叩き込んで磨いてきた努力の賜物です。
現在は息子さんも秋田木工で治具づくりの職人に。親子で技術を受け継いでいます。
釜の扉を開けた瞬間、立ち込める湯気。蒸した木を釜から出して2人がかりで曲木の加工を行なっていた斉藤さん(写真右)と24歳の若手加藤さん。
2人で息を合わせての作業に「せーの!」といった掛け声はありません。あうんの呼吸で黙々と作業を進めます。
「木目、硬さ、曲がりなど木は1本1本に違いがある。それぞれの“個性”を見極めて曲げるタイミングやネジを締める力加減などを考えながら曲げるんです。気を遣う作業ですね」と斉藤さん。
曲木を担当して1年未満の加藤さんは「木を曲げる面白さはありますが、何度繰り返しても難しい。特に慎重になるのは力加減。曲木は奥が深いなと思います」と話します。
2人はいわば師匠と弟子の関係。実践の中で技術の継承が行われています。
2023年8月入社の高野さんは前職で木製品を販売していました。木のぬくもりに魅了されて「作る側になりたい」と木材加工の学校で学んだ後、秋田木工に入社しました。「曲木を専門とする全国唯一の製造元であることに惹かれました。会社見学で現場を見て、機械任せではなく人の手で作る家具へのこだわりにも魅力を感じました」
今は木と向き合う日々を送ります。高野さんは「研修で曲木を担当した際は、全国に誇る技術を学べたことがうれしくて。入社後は、木それぞれの特徴や“表情”を学ぶ毎日。木が生き物のように思えて愛おしいです」と笑顔を見せます。
この日、組み立ての工程を担当していたのは鷲谷さんです。秋田公立美術工芸短大(現秋田公立美術大学)を卒業後、「ものづくりの仕事がしたい」と秋田木工に入社しました。約6年勤務した後に「視野を広げたい」と一度退社して山形県内の企業に就職。その後、「ものづくりをとことんできる環境でもう一度働きたい」と秋田木工に再就職して今に至ります。「男女問わず現場で活躍している秋田木工の雰囲気に魅力を感じて戻ってきました」と鷲谷さん(取材時、女性の職人は鷲谷さんを含めて8人)。
ものづくりの仕事に携わる醍醐味について「自分が製造に携わった家具が使われている様子を見るとうれしい。秋田木工で家具づくりに携わっていることを誇りに思っています」と話します。
椅子の「張り」の工程を担当する佐藤さんは取材時75歳。「張り」の工程ひと筋50年以上になるベテランです。
佐藤さんは地元の農家に生まれ、手に職をつけて兼業農家になろうと高校卒業後に一旦上京。都内で3年間椅子張りの仕事をしていました。帰郷後、秋田木工の張りの仕事をみつけて「前職が活かせる」と就職。農業と両立しながら定年まで働き、嘱託社員を経て現在は技術をかわれてパートで勤務しています。
「何年もこの仕事を続けてきましたが、これまで飽きたとか嫌になったということは一度もありません。張りの仕事が好きなんです」と笑顔できっぱりと話す佐藤さん。丁寧かつ無駄のない動きで下地に生地を張り、ふっくらとした座面に仕上げます。その流れるような手さばきは見ていて飽きない美しさ。熟練の技そのものです。
明治時代に創業して110年以上の歴史がある秋田木工。戦争や戦後の社会の変化など激動の中で歴代の職人たちはひたむきに技術を磨き、曲木家具作りに励んできました。
その姿勢は今も変わらずに受け継がれ、曲木家具はさらなる進化を遂げています。職人たちの言葉の端々に、ものづくりへの情熱があふれていました。
日本デザイン界のパイオニアの1人、剣持勇氏がデザインした秋田木工のロングセラー商品。2013年には「グッドデザイン ロングライフデザイン賞」を受賞し、これまで100万脚以上を生産しています。
明治43年創業の曲木家具の製造業者。全ての部品を曲木で製作した椅子を作れるのは日本唯一といわれ、高い技術力を背景にグッドデザイン賞を多数受賞。有名デザイナーとのコラボ製品も多数生み出している。「木が木で立っていた時よりも美しく」を信念に、伝統を受け継ぎ、新たな時代に合った曲木家具を作り続ける。