秋田と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは「なまはげ」かもしれません。しかし、秋田の伝統芸能はそれだけではありません。盆踊り、囃子、山車行事、神事に結びついた奉納芸能など、地域ごとに育まれてきた多様な芸能が、今も各地で受け継がれています。
こうした伝統芸能は、単なる観光イベントではなく、もともとは集落の祈りや感謝、季節の節目を共有するための大切な行事として根づいてきました。そのため、同じ秋田県内でも土地ごとに意味合いが異なり、それぞれが固有の文化があります。
この記事では、秋田に伝わる代表的な伝統芸能を8選を取り上げ、由来や特徴、どんな場面で行われているのかをわかりやすく紹介していきます。
秋田の代表的な伝統芸能8選
なまはげ(男鹿市)

なまはげは、秋田県・男鹿半島に古くから伝わる民俗伝統行事で、それに登場する仮面をかぶった来訪神の姿そのものを指します。藁の衣装に鬼のような面を付けた若者たちが、大晦日の夜に各家庭を巡り、「泣ぐ子はいねが」「怠け者はいねが」と言いながら家族の健康や無病息災、豊作・豊漁を祈りつつ訓戒を伝える風習です。
この行事は地域ごとに受け継がれ、昭和53年に国の重要無形民俗文化財に、さらに2018年にはユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
単なる怖い習慣ではなく、地域の人々の暮らしや教育、祈りと結びついた大切な年中行事として現在も続いています。
西馬音内盆踊り(羽後町)

西馬音内盆踊りは、秋田県雄勝郡羽後町西馬音内で毎年8月16日〜18日に開催される、日本を代表する伝統的な盆踊り行事です。700年以上の歴史を持ち、国の重要無形民俗文化財に指定されているほか、近年ではユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
夜の本町通りには篝火がともり、寄せ太鼓や笛の囃子に合わせて、編み笠や彦三頭巾で顔を隠した踊り手たちが独特の節回しと優雅なしぐさで舞いを披露します。子どもから大人までが参加し、先祖の霊を迎え送り、豊作や平穏を願う心が込められた盆の供養として地域の人々に大切に受け継がれています。
この盆踊りは、徳島の阿波踊りや岐阜の郡上踊りと並んで日本三大盆踊りの一つとされ、国内外から多くの見物客が訪れる夏の風物詩です。
角館のおやま囃子(仙北市)

角館のおやま囃子は、秋田県仙北市角館町で毎年9月7日~9日に行われる角館祭りのやま行事の中心となる伝統的な民俗芸能です。この祭りは国の重要無形民俗文化財に指定され、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
おやま囃子は、各町内から曳き出される飾り山の上で奏でられる囃子音楽と手踊りを総称したものです。おやまの山車には、武者人形や歌舞伎人形が飾られ、その下段には笛、太鼓、鼓、三味線、摺り鉦などの囃子方が乗り、軽快で変化に富んだ音楽が演奏されます。また、上り山囃子や道中囃子など複数の曲調があり、踊り手の華やかな手踊りも祭りの見どころです。
このおやま囃子は、角館祭りの歴史と共に江戸時代中期から発展してきたもので、地域の人々が収穫や家内安全、無病息災を祈願する大切な伝統行事として今も大切に受け継がれています。
竿燈囃子(秋田市)

竿燈囃子とは、秋田県秋田市で毎年8月3日〜6日に開催される伝統的な祭り秋田竿燈まつりで奏でられるお囃子音楽のことです。この祭りは、江戸時代のねぶり流しといわれる夏の行事を起源に発展し、現在では国の重要無形民俗文化財として秋田の夏を代表する伝統行事になっています。
竿燈囃子は、笛や太鼓などの祭囃子で、祭りの雰囲気を盛り上げる役割を果たします。祭りの主役である長い竹竿に多数の提灯を吊るした竿燈を差し手と呼ばれる演者が額・肩・腰・手のひらに載せてバランスを取る妙技とともに、この囃子の音色が会場を賑やかに彩ります。
秋田竿燈まつりは、五穀豊穣や家内安全を願う祈りの行事として人々に大切に受け継がれてきました。囃子のリズムと掛け声「ドッコイショー、ドッコイショー」が響く中、夜空に揺れる提灯の光と躍動感あふれる演技は、見る人に強い印象を残します。
竿燈囃子は、祭り全体を一体化させる大切な要素として、秋田の夏の風物詩を支える伝統音楽です。
土崎港曳山まつり(土崎)
土崎港曳山まつりは、秋田県秋田市土崎地区で毎年7月20日・21日に開催される伝統的な祭りで、正式には土崎神明社祭の曳山行事といいます。300年以上の歴史を持ち、国の重要無形民俗文化財に指定され、さらにユネスコ無形文化遺産にも登録されています。
この祭りの主役は、各町内が奉納する豪華絢爛な曳山と呼ばれる大きな山車です。曳山には戦国時代などの武者人形や歴史的な人物の飾りが立てられ、港町らしい力強く色鮮やかな姿が見どころです。前部に武者人形、後部には時代の風刺やユーモアを込めた見返しと呼ばれる人形や飾りが配置され、通りを練り歩きます。
祭り期間中、曳子が威勢の良い掛け声「ジョヤサ」で曳山を動かしながら町内を巡行し、港ばやしなどの伝統的なお囃子の音が街中に響き渡ります。曳山は町のいたるところを巡り、夕方から夜にかけての運行が特に迫力ある見どころです。
土崎港曳山まつりは、地域の人々が代々受け継いできた郷土の誇りであり、地元の人々だけでなく観光客にも人気の高い夏祭りとして親しまれています。
太平山三吉神社の奉納芸能

太平山三吉神社の奉納芸能として最も代表的なのは、毎年1月17日に太平山三吉神社で行われる三吉梵天祭です。この行事は、五穀豊穣や家内安全、商売繁盛など1年の幸せを祈願する伝統的な奉納神事で、神社境内に彩り豊かな梵天と呼ばれる依代を奉納します。
奉納される梵天は約70本にも及び、竹の棒に色鮮やかな布や御幣・守り飾りが施され、男衆がそれらを担いで本殿へ向かいます。参加者たちは先陣を競い合うように境内を駆け回り、威勢の良い掛け声とともに激しくぶつかり合う様子が見どころです。このためけんか梵天とも呼ばれ、境内は活気と熱気に包まれます。
また、梵天奉納の際には三吉節と呼ばれる伝統の歌が歌われることもあり、地域で保存会による講習会も行われています。これらの芸能は、神様への奉納と地域の人々の祈りを形にした大切な文化として受け継がれており、秋田の冬を代表する伝統行事として親しまれています。
横手のぼんでん祭り
横手のぼんでん祭りは、秋田県横手市で毎年2月16日・17日頃に行われる冬の伝統行事で、小正月(旧暦1月)を祝う横手の雪まつりの一部として旭岡山神社にぼんでんを奉納する祭りです。約300年の歴史を持ち、小正月の風物詩として地域の人々に大切に受け継がれています。
ぼんでんとは、長さ約4〜5メートルにも及ぶ大きな装飾竿で、竹籠に色鮮やかな布や飾りを施した豪華な頭飾りが特徴です。これらは五穀豊穣、家内安全、商売繁盛などの願いを込めて各町内やグループが半年以上かけて製作し、前日の梵天コンクールでも披露されます。
祭り当日、参加者たちは「ジョヤサ」「ジョヤサ」と威勢の良い掛け声をかけながら、市役所前から旭岡山神社までの道をぼんでんを担いで進みます。本殿の前では、男衆同士が勢いよくぶつかり合うように進む姿も見どころで、雪景色の中で祭りの熱気が高まります。
秋田の伝統芸能はどこで見られる?

祭りで見られる
秋田の伝統芸能をいちばん自然な形で見られるのは、やはり祭りです。例えば夏なら秋田市の竿燈まつり、土崎港曳山まつりのように、囃子と動きが一体になって街全体が舞台になるタイプがあります。冬なら男鹿のなまはげ行事のように、地域の暮らしや信仰と結びついた行事として受け継がれてきたものも代表例です。
祭りでの観覧は迫力が段違いな一方、開催日が毎年固定のものと、曜日や運営都合で前後するものがあるため、公式サイトや自治体・観光サイトで当年の日程と会場、交通規制などを確認してから動くのが安心です。
イベント・観光用公演
祭りの時期に合わせて行くのが難しい人は、定期公演や観光向けの実演を狙うのもおすすめです。わかりやすい例が、秋田市民俗芸能伝承館の竿燈の定期公演で、春から秋にかけて土日祝を中心に実演が案内されています。竿燈まつり本番とは会場や竿燈のサイズが異なる場合があるものの、解説を聞きながら間近で動きを見られるのは大きなメリットです。
また、西馬音内盆踊りは、西馬音内盆踊り会館で毎月の定期公演が実施されており、現地の夏本番以外でも生のお囃子と踊りを体験できる機会が用意されています。男鹿のなまはげも、なまはげ館と隣接する男鹿真山伝承館で展示や実演の体験ができると案内されています。祭り本番だけに頼らず、こうした公演・施設を組み合わせると、旅程に合わせて無理なく伝統芸能に触れられます。
まとめ
秋田の伝統芸能は、祭りの賑わいや迫力だけで語れるものではなく、地域の歴史や信仰、日々の暮らしと結びつきながら受け継がれてきた文化です。なまはげや盆踊り、囃子や奉納行事などは、それぞれが生まれた背景や役割を持ち、土地ごとの違いがそのまま秋田の多様性を映しています。
もし気になる行事があれば、開催時期を調べて実際に足を運んでみる、資料館で予習してから見に行くなど、一歩踏み込んだ関わり方をしてみてください。知ることと体験することを重ねることで、秋田の文化はもっと身近で立体的なものになります。






