肉牛の肥育
秋田県男鹿市角間崎字楢沢10-3
肉牛の肥育
秋田県男鹿市角間崎字楢沢10-3
秋田が誇る雪国の小正月行事「なまはげ」で知られる男鹿半島。海山の恵み豊かなこの土地で黒毛和牛を育てているのが、大進農場の進藤俊人さんです。大進農場から出荷される和牛は、秋田のブランド牛”秋田牛”の大会などで数多くの賞を受賞し、高い評価を得ています。
大進農場は進藤さんと妻の千代美さん、息子の俊之介さん、美咲さん夫妻の4人で営む農場です。現在約230頭の牛を肥育しています。生後8〜10ヶ月で繁殖農家から仕入れた子牛たちは、ここで約20ヶ月かけて大切に育てられ、出荷されます。
2020年に新築された牛舎には、3時間おきにミストで消毒液が噴霧される自動消毒器を設置。自動給餌器や、牛が鼻先で押すといつでも新鮮な水が飲める給水器も完備されています。そのうえで絶えず誰かが掃除をしているのですから、牛舎は清潔そのもの。臭いもほとんど気になりません。
「牛を見るのが肥育農家の仕事なんです」と進藤さん。「作業の一部を自動化することで、人が牛を見る時間を増やすことができる。さらに品質の高い牛が提供できる環境になりました」と言います。
餌の食べ残しがないか、おなかを壊していないか。一頭一頭の牛の微細な変化も見逃さないよう進藤さん家族みんなで見守るのです。
大進農場で何より印象的なのが、牛たちがとても静かで、人懐っこいことです。人の気配を感じると、牛はゆったりとした動きで寄ってきます。ときどき、舌でペロリと人を舐めにきたりもします。
「できるだけ牛にストレスを与えないように育てています。」と進藤さん。普段から人に慣らすためにブラッシングで血行促進を促したり、体のかゆいところを掻いてあげたりとスキンシップも欠かしません。なかには足を投げ出して寝転がる牛たちの姿も見受けられます。それだけリラックスして過ごしているということでしょう。「基本は一頭一頭の個体管理。牛と会話しながら育てるんです」と進藤さんは牛を撫でながら語ります。
進藤さんは朝4時に起きて、水管理のために田んぼへ向かいます。広さは20町歩。約20万平方メートルですから、東京ドーム約4個分に相当する広さです。進藤さんはここで、飼料米となる「ちほみのり」と、食用米「ミルキークイーン」を育てています。牛の餌には、進藤さん自ら育てたこの飼料米が配合されます。さらに、しっかりと食べられる胃を育てるために子牛に食べさせる稲わらも、牛舎に敷かれたもみ殻も、すべて進藤さんが育てたこの稲からとったもの。さらに牛舎から出た牛ふんは敷地内の堆肥センターで堆肥化。これが田んぼにまかれて来年の稲の肥料になるのです。
「牛も米も、毎日のことだから大変ではありますが、命を扱う大切な仕事。孫の代まで仕事を楽しく続けられるように私の代でできることをやっておきたい」と進藤さん。命の循環を米づくりがつないでいます。
築50年になる牛舎に今も掲げられた看板があります。
“家畜無くすて農業無し”。
「父が書いたもので少々訛っていますが、“家畜無くして農業無し”。今でいう“循環型農業”ということを言いたかったんだと思います」。
牛を育て、その命をいただく。牛のふんは堆肥にして飼料米の田んぼにまく。その米や稲わらを牛の餌にする。こうやって命が循環していくことを指して先代が書かれた言葉なのでしょう。
“循環型農業”という言葉が一般的になるずっと以前から、大進農場ではそれが実践されていました。「我々は他の命をもらって生きている。この仕事をしていると命をいただく大切さを実感します」と語る進藤さんの口調は穏やかながら、真に迫るものがあります。
大切に育てた牛を出荷するとき、いつもは従順な牛がこのときばかりは踏ん張って動かなかったり、涙を流したりすることもあるのだといいます。「『頑張ってうまくいってよ、また食べてあげるから』という思いです」と進藤さん。
成育過程の一部始終を、手をかけ、目をかけ、愛情を注いできた牛たち。大進農場から出荷される牛たちは、秋田県内の食用牛の大会で数多くの賞を受賞し、高い評価を得ています。これからも、一頭一頭と向きあいながら生命への感謝と愛情をかけて育て続けます。
昭和46(1971)年、減反政策を期に牛舎を建てて50年。以来一貫して黒毛和牛の肥育を行う。牛ふんの堆肥化と、その完熟堆肥を使用した飼料米、食用米の自家生産による循環型農業を実践。代表の進藤俊人さんで農家としては14代目、家畜商として3代目に当たる。